(※用語の説明は、この記事の最後に記載)
財務省の発表(2016.2.8)によると、2015年の経常収支は16.6兆円の黒字となりました。
過去最低を記録した2014年に対し、14兆円の改善。
経常収支が大きく増えたのは、貿易収支の赤字が大幅縮小したため。。
原油や天然ガスの値下がりもあって、輸入額が減少したことから、輸入の赤字が改善しました。
輸出は自動車半導体などの電子部品が増えて、前年より2%増加。
サービス収支は、旅行収支が53年ぶりに「黒字化」し、知的財産権使用料が過去最大になり、赤字が縮小。
外国人旅行者が前年よりも47%も増え、インバウンド消費が大きく貢献しています。
また、第一次所得収支も大きく増加。「直接投資収益」及び「証券投資収益」が増加したことで、昭和60年以降で過去最大です。
★一国の経済が成熟していくと、貿易赤字となり、続いて所得収支も赤字となり、経常収支全体が赤字となっていくことが多いようです。
経常収支の動きとしては、国の経済の発展とともに、このような推移を示すことが多いとして、学説の一つになっています。
アメリカでは既にこのような推移を経た結果として、経常収支の赤字が続いています。
(そもそもアメリカは貯蓄が少ないために、海外から借金せざるを得ないとの考えもあります)
様々な理由はありますが、貿易収支が赤字になるのは、
・国が豊かになって、コストが上昇すると、輸出企業は海外での現地生産をしていきます。
・これで輸出が減り、一方でコストが安い国からの輸入が増えることで、
貿易赤字が拡大していきます。
日本は戦後懸命に働いて貯金(個人も企業も)を増やし、この潤沢な資金は、国の借金である国債に回り、また海外への投資に向かっています。
海外に投資すれば、その利子や配当金が所得収支となって日本に還ってきます。
まだまだ当分の間、所得収支が赤字になるのことはないでしょうが、
・貿易赤字が続くと、国としてみた場合、入るお金よりも出て行くお金の方が多くなるので、
・支払いに当てるため、海外に投資したお金を引き上げることで、
・次第に海外投資額が減少し、所得収支も減っていくと予想されます。
こんな形で、日本も経常収支は将来赤字になるだろう、と予想する方も多くいます。
そして、為替レート。
貿易収支が黒字、所得収支が黒字と言う事は、黒字になった分だけ海外から多くの外貨を得たわけですので、これを円に交換しなければなりません。
ですので、必然的に「外貨を売って、円を買います」。つまり円高になります。
米ドルに対しては、2012年9月27日以降、ほぼ一貫して円安となっています。
この数年の円安の大きな理由は、アベノミクスによる日銀金融緩和によるものですが、2014年まではベースとして経常収支の黒字幅が縮小していることも隠れた要因となっています。
ただ、2015年は経常収支は大きく黒字化したため、円高に振れてもおかしくないのですが、やはり強力な金融緩和の影響で円高を抑えています。
為替レートは短期的には、金利の高低に左右されたり、リーマンショック・ギリシャショックのような金融問題が起こると相対的に安全な通貨が買われて動くことが多いのですが、
中期的には、経常収支のような国と国との資金移動の差によって動いていくと言われています。
◆最後に、細かな説明はしませんが、貯蓄が多い国は経常収支が黒字となります。
日本は貯蓄がまだまだ十分あるわけですが、高齢化によって国全体としては、貯蓄の取り崩しが起きはじめています。
現役世代は所得が伸びないため、貯蓄ができず、高齢世帯は取り崩すとなると、日本の貯蓄はどんどん減っていくことになります。
そうなると、経常収支が赤字となります。
貯蓄がなくなるということは、国内では国債を買うことができなくなるわけで、外国に買ってもらうしか方法がなくなり、ギリシャショックのようなことが日本にも起こりうるわけです。
※用語解説
・貿易収支
国と国との財貨の輸出入の差。FOB価格で計上したもの。貿易統計をベースとする。
・サービス収支
国と国とのサービスの取引の差。
輸送、旅行、通信、建設、保険、金融など、財貨以外のもの。
・第一次所得収支
外国への出稼ぎによる賃金、国と国との投資の収益(利子や配当等)の差。
・第二次所得収支(以前は経常移転収支と呼ばれていました)
政府間の無償資金援助、国際機関への拠出金など。出稼ぎ外国人の母国への送金。海外留学生への仕送り等